10月初旬に日本に行き昨日(31日)ヒースローに戻って来ました。連日の世界的な株価の下落、東証でも一時はバブル崩壊後の最安値を割り込むまで値を下げ、新聞を広げれば世界恐慌という活字も。実質経済は安定していたはずの日本でさえこんな状況ですからイギリスがどんな感じになっているのか不安交じりの興味を抱きながらの帰国です。
飛行機は夕方4時前にタッチダウン。予想に反して夕空の晴れ間に太陽が輝き、明るいロンドン。拾ったタクシーはM4からA40へのバイパスに入り、殆ど止まることなく順調に飛ばします。A40に入る手前で渋滞になり運転手に声をかけました。
「商売の方はどう?景気が悪いようだけど」
「・・・まあ、悪いって言ったら悪いけどまあまあだね」
やや間があっての返事です。タクシー運転手と言っても世界でも類を見ないほど難度が高いといわれているテストをパスしているので結構インテリがいるものです。件のドライバー氏コックニー風のベランメエ調ではなく、言葉を選びながら理詰めのきれいな英語を喋ります。ちなみにタクシーは新しく、運転手と客席と仕切るガラスを通して響くスピーカーの音声が明瞭であったことも会話の助けになっています。
ひとしきり続いた会話の中で彼は株の低迷は一部の強欲な投資家達の利益追求のつけだと断じました。「それにしても実際はどう、売上は今年始めくらいに比べたら何パーセント程度落ちたの」という私のストレートな問いに「そうだね2~3割ダウンといったところかな」と言う返事が。先に「まあまあ」といった返事とはずいぶん違います。
話し出すと止まりません。彼は今離婚の調停中。奥さんと共同購入した家の財産分けがまだ出来ていないとのこと。奥さんの父親は資産家で自由になる時間は十分にあり論争好き。結婚していたときは理解のある人だと思っていたのに、今や彼の敵に。調停の思わぬ足かせになっているのだそうです。そうこうしているうちに目的地に到着。
「稼ぎは悪くなってるけど、家で待ってる人はいないから時間は自由に取れるし、ちょっと長く運転すれば前と収入は変わんないね。まあ景気のことより自分の問題の方が大変なんだよ」言葉とは裏腹に悲壮感も無く達観したように言い、彼は走り去ってゆきました。